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旅・いろいろ地球人

オセアニア探検

(7)病気 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2011年8月25日刊行
白川千尋(先端人類科学研究部准教授)

マラリア予防の蚊帳
探検には危険がつきものである。クックやマゼランのように、命を落とした者も少なくない。危険をもたらすものの一つに病気がある。オセアニアを訪れた西洋人の探検家や宣教師、入植者などは、とくにマラリアに苦しめられた。

オセアニアでマラリアは、それを媒介するハマダラカという蚊のいるパプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツの三つの国に分布している。太平洋戦争のときにパプアニューギニアやソロモン諸島の戦地で、敵味方を問わず兵士たちを苦しめたさいたるものの一つに、マラリアがあったことを知る向きも少なくないだろう。

しかしながら、病気に苦しめられたのは、探検家や宣教師といった人々の側ばかりではない。オセアニアの人々もまた、西洋人とともにやって来た麻疹(ましん)をはじめとする感染症によって苦しめられたのである。こうした感染症は、それまでオセアニアになかったために免疫のない人々の間で爆発的に流行し、おびただしい数の命を奪った。なかには、人口が数万人から数百人に激減してしまった地域もある。病気による深刻な影響を受けたのは、探検家などの側よりも、むしろオセアニアの人々の側の方だったのだ。
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