国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

アメリカ大陸の物作り

(5)「古代」生かした土器  2012年2月9日刊行
関雄二(国立民族学博物館教授)

チュルカナス村の土器工房

南米ペルーを目指す観光客の大半は、インカ帝国の都クスコなど南高地を訪れ、土産物を手にする。ところが近年、北海岸産の土器にも人気が集まりつつある。

ピウラ県チュルカナス村で焼かれる土器の起源は1970年代と新しく、ろうけつ染めに似た技法を用いる。

成形し乾燥させた後、地に彩色を施し、さらに描きたい紋様部分に粘土ひもを張り付け、化粧土を全体にかける。窯での焼成後、粘土ひもを取り除くと、地の彩色が浮き出て紋様となるというわけだ。

この技術を考案したのは地元の若者たちであった。村の周辺には、紀元後200年から700年ごろに栄えたビクス文化の遺跡が点在し、その土器片に描かれた紋様に興味をもった彼らが試行錯誤の末に、技術を復興させたのである。

これにはこの村が、トウモロコシ酒の醸造過程で使われる壺(つぼ)や甕(かめ)の生産地であったことが幸いした。伝統的な土器作りが役立ったことになる。

しかし若者たちは、古代土器のレプリカではなく、現代的な花器や手づくねで日常生活を表現することを選んだ。いまや土産物の域を超え、芸術品すら誕生しつつある。

過去へのまなざしに支えられた文化的創造といえよう。

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