国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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ずらりと並べる

(4)前菜で勝負 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2012年5月31日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)

カナダから帰郷した親族を迎える宴。「もっと食べて!」イスラエル、ファッスターで、筆者撮影 

日本人は食に対して、まれにみる貪欲さを持つ人びとだ。大阪でも東京でも、居ながらにして世界各国の料理が堪能できる。トルコ料理をはじめとした中東の料理店も、最近はあちこちでみかける。しかしながら、日本に紹介されているのは、その食文化の一端にすぎない。

羊肉の豪快な串焼きというのが、中東の料理に対する日本人の一般的なイメージだろう。ところがこれはあくまで祭日の特別な料理であって、食生活の中心はむしろ豆と野菜である。なかでもメッゼと呼ばれる、東地中海地域の前菜料理全般は、日常から祝いの席まで欠かせない食の要であり、家庭の主婦の腕の見せどころだ。

メッゼの特徴は、その手の込んだ繊細さと、品数の多さにある。料理本を開くと、まずメッゼのレシピからはじまるが、豆のペーストやブドウの葉のロール、パイにサラダに熟成させたチーズなど、どれも手間のかかるものばかりだ。それを多いときは10種類近く用意して、テーブルにずらりと並べる。これはなかなか壮観で、目も舌も存分に楽しませてくれる。

しかし、食べすぎは禁物である。これはあくまで前菜。豪華なメーンディッシュとデザートが待っていることを、お忘れなく。

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