国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ずらりと並べる

(6)ギターか妻か  2012年6月14日刊行
寺田吉孝(国立民族学博物館教授)

コレクションの前で、 ポルトガル・ギターを調弦するジョゼ・ルシオ・アルメイダさん=リスボンで、筆者撮影

ギターの調査をするためにポルトガルに行った時のことだ。首都のリスボンにすごいコレクターがいると教えられて、ジョゼ・ルシオ・アルメイダさんのご自宅を訪れた。

中に入ると、壁にぎっしりと並べられた楽器が目に飛び込んでくる。20年以上もかけて集めた楽器は400点以上。見たことのない珍しい楽器もある。居間や寝室はギターに完全に占領され、キッチンやトイレも危うい。

アルメイダさんは、楽器を集めるだけでなく、その多くを器用に弾くこともできる。それでも飽き足らず、知り合いの職人から傷んだ古いギターを修復する技まで学んだ。ポルトガルには彼のようなギターの虜(とりこ)になった男性たちがたくさんいて、盛んに交流しているそうだ。ギター三昧(ざんまい)の生活を送るのは、さぞ楽しいだろう。

帰り道、同行してくれたこれまたギターマニアのセルジオさんが話す。ギターばかりに愛情を注ぐアルメイダさんに我慢できなくなった奥さんが、ある日問いつめたそうだ。「私かギターか、どちらかにしてちょうだい。」

「奥さん出て行ったんだよ」と言ったセルジオさんは、それほど同情しているようにも見えなかったのだが……。

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