国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

風を求めて

(3)都市を漕ぎ渡る 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2012年7月19日刊行
小川さやか(国立民族学博物館助教)

路上は「仕事場」でもある=タンザニアで、筆者撮影

都市化が進むタンザニアでは、毎日、多くの若者が夢と希望を胸に地方から都市へ出稼ぎにやってくる。しかし若者たちが都市において直面する現実は厳しいものだ。正規の雇用機会を得ることができる若者はほんのわずかである。

多くの若者は、建設現場での日雇い労働や零細商売といったさまざまな「都市雑業」で日々の暮らしを支えている。一つの仕事を長く続けることは難しい。誰でもできる都市雑業は、競争が激しいからだ。

仕事や客を求めて都市をさまよう若者たちは、自らを「ワセーラ(船乗り)」と呼ぶ。曰(いわ)く、「われわれは、都市世界の荒波を自らの才覚・裁量で漕(こ)いで渡っている船乗り」である。

多くの若者の暮らしは、食べていくのがやっとの不安定なものである。しかし彼らは、知恵を駆使して厳しい都市世界をたくましく生き抜いている自分自身に誇りをもっている。

タフであることは、必ずしも厳しい状況における我慢強さや不屈の精神を意味しない。職場や人間関係を転々としながら、彼らは言う。「それぞれの日は似ていない(明日は明日の風が吹く)」。舵(かじ)を操り、荒波を乗りこなす船乗りのように、今日も彼らは都市を航海していることだろう。

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