国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

美味望郷

(4)ナツメヤシ東西事情  2012年9月27日刊行
西尾哲夫(国立民族学博物館副館長)

ツメヤシを採るベドウィンの男性=エジプトで、筆者撮影

「アラビアンナイト(千一夜物語)」の第一夜には、旅の商人が放りなげたナツメヤシの核が、たまたま通りがかった魔人(ジン)の息子を死なせてしまったという話が出てくる。沙漠を旅する商人の昼飯はパンとナツメヤシだった。

今も昔も砂漠の旅にナツメヤシは欠かせない。濃厚な甘さのおかげで、一気に疲労が回復する。アラブ世界の人々にとっては、食用としての実だけではなく、葉や幹も重要な生活資源となり、最も身近な植物のひとつだと言えるだろう。

ナツメヤシの実を乾燥させたもの(デーツ)は、日本でもかなり知られるようになってきた。土地や木(品種)の違いによって味も異なっており、お国自慢のタネともなっている。

地元では乾燥させた実を煮詰めてジャムを作っている。すすめられて口にしたところ、とろりとしたコクのある甘みが広がった。どことなく懐かしい味がする。後で知ったのだが、日本のお好み焼きソースやトンカツソースには、ナツメヤシの実が不可欠らしい。また、鹿児島にはナツメヤシから造った焼酎もある。

日本に戻ってトンカツにソースをかけるたび、痛いほどに青かった中東の空を思い出す。

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