国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

美味望郷

(5)亀鍋 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2012年10月4日刊行
小林繁樹(国立民族学博物館教授)

あおむけにした亀を穴に入れ、腹の上で火をたく準備をする=筆者撮影

ミクロネシアのヤップ島でのこと。イモと魚の食事に少し飽きてきた頃、うまい具合にウミガメが捕まった。背甲(はいこう)の長さは70~80センチほど、なかなか大きいアオウミガメである。男性が集まって、さっそく調理が始まる。

まず首を打ちつけて息の根を止める。そして喉を切り開き、そこから手を入れて腸を引き出す。調味料だと言って、半割にしたレモンを数個、体内に入れる。喉は縫い合わせてふさぐ。

次に甲羅の大きさに合わせて地面に穴を掘り、亀をあおむけに入れる。そして、その白い腹の上でたき火を始めるのである。亀の甲羅が、いわばそのまま鍋となったのである。ところが不思議なことに亀はまだ生きていて動くので、その足をひもで縛ってしまう。

さすがにしばらくすると動かなくなる。そこでおなかの灰をていねいに取り除き、もろくなった腹の甲羅をはがすと、甲羅焼きというのか、亀鍋のでき上がりである。

肉塊を取り出し、背甲についている肉もこそげ落とす。底にたまった肉汁もしっかりくみ取る。肉は筋肉質の食感で、鶏肉のように淡白で食べやすい。魚の味とは違って、またおいしい。

何一つムダにしない合理的な調理方法が生んだ、極上の料理である。

シリーズの他のコラムを読む
(1)北極海のクジラ料理 岸上伸啓
(2)トルティーリャ 八杉佳穂
(3)エチオピアの蜂蜜酒 川瀬慈
(4)ナツメヤシ東西事情 西尾哲夫
(5)亀鍋 小林繁樹
(6)確かに、蟻も悪くない 関本照夫
(7)日本の食べ物は「甘い」 田村克己
(8)おかずはないけど 朝倉敏夫