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美味望郷

(7)日本の食べ物は「甘い」 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2012年10月18日刊行
田村克己(国立民族学博物館教授)

ミャンマーのカレーや付け合わせのおかず、スープなど=筆者撮影

ビルマ(現ミャンマー)で調査をしていた30年も昔の話である。当時はまだ太平洋戦争の記憶が残っており、ある超能力者の元を訪ねたとき、日本兵の幽霊に取りつかれて病気になった人の話を聞いた。それがどうして分かったかというと、その人が砂糖をむしゃむしゃと食べるようになったからという。ともかく、日本人の食べ物は甘いとだいたいに受け止められている。

調査していた村で、日本のカレーをふるまったことがあるが、食べた人は「甘い」と言って、それがカレーとは信じなかった。ビルマの主食もカレーをご飯にかけたものであるが、そのカレーは日本のもののようにとろみがなく、さまざまな香辛料を入れ、香辛料をたくさん使い、油で煮込んだスープである。

幸いなことに、私は村でのフィールドワーク中、毎日続くこうした料理がほとんど苦にならず、「甘い」日本の味を忘れるほどであった。それでも日本を懐かしく思い出した食べ物がある。それはペーボウッ(腐った豆)すなわち納豆である。納豆といっても、ねばねばした糸を引くものではなく、天日で乾燥させた板状のもので、それを小さく割ってご飯に混ぜて食べた。関西出身の私は納豆を日本では食べることがないが、異国で日本の味としておいしく思ったことは不思議な思い出として残っている。

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