国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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鉄路叙景

(9)わが民族の名が走る  2012年12月27日刊行
野林厚志(国立民族学博物館教授)

普悠馬号運行の起点となる台東駅舎の原住民族の木彫り=筆者撮影

台湾西部平野では日本の新幹線技術を用いた高速鉄道が首都台北から南の玄関口の高雄を走っている。一方、東海岸の在来線は電化されていない部分もあり、高速化も含めた充実が求められてきた。JRに相当する台湾鉄路管理局はこの全線電化を決定し、新たな電車が2013年の新年早々に登場することになった。車両はこの円高にも関わらず、日本製を採用している。

さて、電車には愛称がつきものである。管理局は原住民族の住人が多い地域を新列車が走ることに考慮し、原住民族にゆかりのある地名や事柄20個を愛称の候補として選び、インターネット投票を呼びかけた。

当初、票を先行させたのがパイワン族の集落名である太麻里(たまり)だった。これを見て組織的に動いたのがプユマ族だ。候補の中に普悠瑪(ぷゆま)という民族名があり、我らの名前を列車の愛称にとインターネット世代を中心に熱いネット投票を展開し、普悠瑪号の愛称を見事に勝ち取ったのであった。

プユマ族の男性は、男性が世代ごとに人生の一時期を青年集会所で共に過ごし、団結力を強める民族として知られてきた。今回の投票もいざという時のまとまる力が発揮されたと言える。そんなプユマ族の気風を乗せた列車がもうすぐお目見えする。

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