国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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贈り物

(5)伝える布、カンガ  2013年2月7日刊行
小川さやか(国立民族学博物館助教)

カンガを身にまとった女性(中央)=筆者撮影

タンザニアで最もポピュラーな贈り物は、カンガである。腰に巻くほか、背負い布や風呂敷、タオル、シーツなど多様な用途で使われるアフリカン・プリント布だ。

贈り物にカンガが好まれる理由は、メッセージを贈ることができるという点にある。布の下方にはスワヒリ語の格言やことわざが記されている。結婚のお祝いならば、「末永く平和に仲良く暮らせるよう、神のご加護を」といった祝詞が好まれるが、「愛とは我慢だ」「豹(ひょう)にも舅(しゅうと)がいる」(どんな怖い人も、頭の上がらない人はいる)など機知に富んだ格言を贈っても喜ばれるだろう。

日常生活でも人びとはカンガを使って言葉を贈りあう。友人の女性は、夫が仕事に失敗して落ち込んでいた頃、「滑ることは倒れることではない」「道に迷う。それは道を知ること」と書かれたカンガをよく腰に巻いていた。言葉にすると照れくさい励ましの文句もカンガを通じてならスマートに伝えられるのだ。

ただし、ウイットに富んだタンザニアの人びとは、贈り物のやり取りについて、よく心得ている。「人柄よりも先にモノを出すな」「感謝を待つな。ラバの感謝は後ろ蹴りかもよ」といった格言のついたカンガで切り返すこともある。贈り物のやり取りには、くれぐれもご注意を。

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