国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

緑薫る

(2)北国の山菜採り  2013年5月9日刊行
齋藤玲子(国立民族学博物館助教)

エゾノリュウキンカの群落で山菜を採る遠山サキさん=北海道浦河町で著者撮影

北海道の新緑の季節は、関西よりもひと月ほど遅い。4月下旬からウメ、サクラ、ツツジなどが一斉に咲き始める。花見にはジンギスカンが定番で、採りたてのギョウジャニンニクがあれば、最高。その濃い緑とニラに似た独特の香りは食欲をそそり、体を目覚めさせてくれる感じがする。

北国の自然のなかで暮らしてきたアイヌの人びとにとっても、もちろん春は大切な季節だった。ビタミン豊富なギョウジャニンニクは、かつては若葉を採集すると、根元と葉を分けて刻み、天日で干して蓄えた。だから冬も栄養価の高い青菜を摂(と)ることができた。今は醤油(しょうゆ)漬けや冷凍でも保存される。

8年前の5月初旬、アイヌの伝統的な織物の製作を頼んでいた北海道浦河町の遠山サキさんを訪ねた。予定していた糸かけ作業の記録が終わると、翌日は山菜採りに連れて行ってもらった。

当時、遠山さんは70歳代後半で、自転車に乗る姿にも驚かされたが、山に入るといっそう元気になった。鎌(かま)と肥料用の丈夫で大きなビニール袋を手に、山道をすたすたと歩く。エゾノリュウキンカ(別名ヤチブキ)や、クサソテツ(コゴミ)などを採って帰り、その日は庭で鉄板焼きをごちそうになった。もちろんギョウジャニンニクの醤油漬けも添えて。

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