国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

緑薫る

(4)「ダビェの花」の力  2013年5月23日刊行
田村克己(国立民族学博物館教授)

精霊に緑の枝葉が供える=ミャンマーで、著者撮影

ビルマ(現国名ミャンマー)には敬虔(けいけん)な仏教徒が多い。彼らはまたナッと呼ばれる精霊を信仰していることがある。ナッはちょうど日本のカミさまにあたるようなもので、仏さまが主に来世に関わるのに対し、ナッは現在の願い事をかなえてくれる。ナッのお祭りでは、霊媒たちが踊りをささげる。

踊りの始まりのとき彼らが手に持つのは、青々とした緑の葉のついた木の枝である。東南アジアなどの熱帯や亜熱帯に分布する、ダビェというフトモモ科の木の枝で、「ダビェの花」と呼ばれる。はじめてこれを見たとき、私は我が国のサカキを思い起こした。狭義の榊(サカキ)はツバキ科の常緑の小高木で、古くから神社の境内に植えられ、枝葉がさまざまな神事に使われてきた。

「ダビェの花」も吉兆のしるしといわれ、宗教的な供え物をするとき、つぼに挿して置かれたりする。家を新築するときに、柱の一つにこの「花」を配すことがあり、その柱は「ダビェ」と呼ばれる。この「花」はまた「勝利の花」とも言われ、兵士たちは頭のまげに挿したり、耳たぶに通したりしたという。また、人々が危険なことや困難に立ち向かうときに身につけたという。緑のもつ不思議な呪力ゆえであろう。

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