国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

緑薫る

(8)美し国の神髄  2013年6月20日刊行
宇田川妙子(国立民族学博物館准教授)

ローマ近郊の、イタリアでもっとも有名なインフィオラータ=筆者撮影

緑、白、赤のイタリア国旗。これは19世紀のイタリア統一運動のシンボルでもある。それゆえ色の意味については諸説あるが、一般的には、赤は愛国者の血、白は平和、そして緑は国土や自然とされている。

国土の自然がナショナリズムと結びつくことは少なくない。私たち外国人は、イタリアといえば、歴史的な建造物や芸術などに目がいきがちだが、彼らイタリア人にとっては土地や景観こそ「美(うま)し国(ベル・パエーゼ)」のゆえんだ。

実際、彼らは自然の中で過ごすことを好む。とくに5月、6月はその絶好の季節である。地中海性気候ゆえ雨がちで陰気な冬が終わると、人々は待ちかねたように外に出る。田舎の親戚を訪ねたり、郊外でピクニックをしたり。そして木々の緑は萌(も)え、花々は盛りとなる。摘みとった花びらを路上に敷き詰めるインフィオラータという祭りも各地で行われ、みな一気に陽気になる。

ただしこの時期、天候が不順になることもある。しかし彼らは外出の楽しみをあきらめない。いや、本当の楽しみとは、その機会に皆と食事をすることだろう。何しろ国旗の赤、白、緑は、トマト、モッツァレラチーズ、バジリコという組み合わせにもなるイタリアなのだから。

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