国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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映画

(2)「異界」の可視化  2013年8月29日刊行
吉田憲司(国立民族学博物館教授)

鞍馬天狗(てんぐ)、月光仮面、そしてウルトラマン。映画・映像の世界では、繰り返し、変身するヒーロー、仮面のヒーローが登場してきた。一方で、民俗芸能などの仮面を見て、「どうして映画に出てくる宇宙人みたいな顔をしてるのだろう?」と不思議に思ったことはないだろうか。

世界各地の祭りや儀礼で森の奥からやって来る精霊や死者の霊を表す仮面から、映画やテレビに登場する月光仮面やウルトラマンに至るまで、仮面、あるいは変身するヒーローは、人間の力の届かぬ世界、つまり「異界」の世界の存在を目に見えるかたちにしたものにほかならない。そこにあるのは、人間の知識の及ばない世界、つまり異界を、森に設定するか、山に設定するか、月に設定するか、それとも宇宙のかなたに設定するかの違いだけである。

利用できる知識の増大とともに、人間の知識の及ばぬ領域=異界は、山から月へ、そして宇宙のかなたへと、どんどん遠くへと遠ざかっていく。しかし、その異界の力への人間のあこがれ、異界からの来訪者への期待が変わることはなかったのである。

儀礼の世界、そして映画の世界でも、人間は自分たちの手の届かぬ世界の力に働きかけるために、仮面という装置、あるいは変身するヒーローを生みだしてきたようだ。

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