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よそ者?

(4)ここが、私たちの村だ 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2013年11月7日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)

洗礼式に臨んだ夫婦と子どもら=クフル・ビルアムで、筆者撮影

3年前の夏、イスラエル・ガリラヤ地方での調査中に、友人の子どもたちの洗礼式に参列した。会場は彼らが今住んでいる村の教会ではなく、そこから4キロほど離れた丘の上、廃墟の中にぽつんと建つ教会であった。

かつてその丘の上には、クフル・ビルアムというアラブの農村があった。キリスト教徒とムスリムが共存していたこの村は1948年、イスラエル建国時にユダヤ人民兵組織に占領され、村民たちは住み家を追われた。彼らは帰還を求めてイスラエル政府と争い、勝訴したものの、村は徹底的に破壊されており、戻るに戻れない。そこで着手したのは、教会の再建であった。いつの日か故郷に帰るという願いをこめて。

村民たちの帰還は依然果たされないが、再建された教会は、最近頻繁に使われている。かつての村民たちの子孫が結婚するとき。その子どもたちが洗礼を受けるとき。そして、死してようやく帰郷を果たす者たちを葬るとき。友人の義父母も、クフル・ビルアムの出身だ。ユダヤ人国家のよそ者として扱われながらも、イエス以来のキリスト教徒の血は、連綿と受け継がれてゆく。「私たちはここにいる」。和やかに洗礼を祝い、集う誰もが、無言のうちにそう訴えているように思えた。

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