国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

冬を楽しむ

(7)キムジャンの心  2014年1月30日刊行
朝倉敏夫(国立民族学博物館教授)

キムチ作りの様子=韓国の忠南礼山郡徳山面で2013年11月、玄泳佶(ヒョン・ヨンギル)さん撮影

昨年12月、日本の「和食」とともに韓国の「キムジャン文化」がユネスコ(国連教育科学文化機関)無形文化遺産に登録された。

キムジャンは、気温が急激に下がる11月から12月にかけて越冬食としてたくさんのキムチを作る、韓国の冬の風物詩であり歳時記的な行事である。

塩漬けした白菜の葉に、大根の千切りやワケギなどの具材にトウガラシやニンニク、塩辛などで作ったヤンニョムを混ぜたものを塗りつけてかめに漬ける作業は大変だが、途中でまだ漬かる前のキムチの味をみて、マッコリを飲む。家族や親戚、隣人が集まり、家の中庭で和気あいあいとキムジャンを楽しむ姿は、冬の祝祭であった。

アパートに住む家族が多くなり、ことに21世紀に入ってキムチ冷蔵庫が普及したため、大規模なキムジャンが少なくなったといわれる。

他方、今はこの時期、ソウルと地方を結ぶ高速道路が渋滞する。ソウルに住む子どもたちが地方に住む両親のもとに帰り、一緒にキムジャンをし、キムチを分け合うためという。

キムジャンの心は、たくさんのキムチを一緒に漬けて、分かち合うことにある。日本の和食の心が「おもてなし」にあるならば、韓国のキムジャン文化のそれは「わかちあい」である。

シリーズの他のコラムを読む
(1)究極の入浴法 庄司博史
(2)蜂蜜売りが来るころ 横山廣子
(3)掘っ立て小屋のぬくもり 池谷和信
(4)2年に1度の「使者祭」 岸上伸啓
(5)カワカマスの穴釣り 佐々木史郎
(6)香をたきしめて 三島禎子
(7)キムジャンの心 朝倉敏夫
(8)小正月の火祭り 須藤健一