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(1)究極の祝祭 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2014年4月10日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)

祭りに参加する鼓笛隊。バグパイプは英国統治時代の名残=ハイファで2013年12月、筆者撮影

「お祭りのお祭り」、つまりは究極の祝祭と訳すべきか。ヘブライ語とアラビア語で書かれた垂れ幕が、ハイファの街角で目に飛び込んできた。クリスマスシーズンにあわせ、ダウンタウンでおこなわれるイベントの広告である。

ハイファはイスラエルでも珍しい、ユダヤ人とアラブ人が共生する街である。安息日でユダヤの店舗が閉まる土曜日には、アラブの市場にユダヤ人が集まる。ユダヤ教の食規定に沿っているとは限らないにもかかわらず、アラブ料理の惣菜(そうざい)を大量に買い込む姿もみられる。比較的リベラルなこの街のユダヤ人は、ユダヤ教の食規定に執着しない世俗派が多いのである。

アラブ人にキリスト教徒の割合が高いことも、共生の理由のひとつである。前述の祝祭がクリスマスと同時期におこなわれるのも、このためだ。

近年、イスラエル政府はアラブ人キリスト教徒をムスリムと分離し、同化へ導こうと、露骨な政策を打ち出している。キリスト教徒に主眼を置いた祝祭には、胡散(うさん)臭さも漂う。

しかし、ユダヤ人市民とキリスト教徒だけではなく、実際には大勢のムスリムもこの祭りを愉(たの)しんでいるのである。これもまた、共生のひとつのありかたなのかもしれない。

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