国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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生き物

(3)格闘し、「くい」、思う 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2014年6月19日刊行
山本睦(国立民族学博物館機関研究員)

大盤振る舞いされたクイの丸焼き=ペルー・ポマワカ村で2008年10月、筆者撮影

南米アンデスの祝いの席では、クイという名のテンジクネズミがよく振る舞われる。名前は「くぃ~」という鳴き声に由来するとされ、一般に台所で大事に育てられている。これは世界でも希有(けう)な家畜化されたネズミなのだ。

あるとき、調査地の村で、友人の母親から「クイを食べたいのなら、好きなのをとって調理していいよ」と言われた。友人らは、たじろぐ私にめざとく気づき、「やったことないの?」と満面に笑みを浮かべて近寄ってきた。

逃げまわるクイをつかまえるのは結構難しい。クイと私の必死な姿に、みんなは大笑いだ。しばしのドタバタ劇のあと、本当の狙いは隣りのやつだったが、やっと1匹を手にした。

ほっとしたのもつかの間、「次は下準備ね」といわれて、さらにたじろいだ。つかまえたクイを素手で締めなくてはならないのだ。その時の鳴き声や感触は今も忘れられない。そして何よりも「生き物を食べるなら、そのくらい責任もってしないとね」といった彼女の言葉は、強く印象に残っている。

クイの調理法のなかでも、私は焼くのが好みだ。クイを焼いた時に滴る、旨(うま)みをたっぷり含んだ脂で作るジャガイモの付け合わせが、また絶品なのだ。生き物のありがたみや大切さを実体験で知らしめられた瞬間だった。

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