国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

食べる

(4)1人で黙々、という作法 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2014年8月21日刊行
吉田ゆか子(国立民族学博物館機関研究員)

バリ島の台所風景=インドネシアで6月、筆者撮影

インドネシアのバリ島で調査をしていたときのこと。訪問先の家で食事していくよう勧められた。家のご主人が台所へと連れて行ってくれ、皿にご飯を盛り、あとはここにあるおかずを自由に取るように言った。そして彼は私を1人台所に残し、どこかへ行ってしまった。

「こんな物しか無いけれど」と勧めてくれたおかずは、魚の塩漬けの揚げ物、空心菜の炒め物、大豆発酵食品テンペの炒め物など。どれも美味だったが、他人の家の台所で1人という状況に、妙な気分も味わった。

バリの一般的な家庭では、レストランに行く時などの特別な機会を除けば、皆でそろって食事する習慣がないことが多い。家族は、それぞれ好きな時間に食べる。友人曰(いわ)く「お腹(なか)の空く時間帯や生活リズムが皆別々だから」。

結婚式では、参列客が皆で食事する。しかし、これも会食とは言いがたい。めいめいが自分用の皿を前に黙々と手早く食べている。食事中のお喋(しゃべ)りもあまりお行儀が良くないのである。

ただし、バリ人たちは自分の事だけを考えて食事するのでもない。食べる前に周囲に「お先に」「あなたも食べない?」と声をかけるのがマナーだ。「じゃあ私も」と誘いにのっても、相手が早々に食べ終わり、私1人で黙々と食べる羽目になることもあるのだが。

シリーズの他のコラムを読む
(1)サバンナの牛と先住民 齋藤晃
(2)母乳をもらう 松尾瑞穂
(3)歴史とつながる給食 加賀谷真梨
(4)1人で黙々、という作法 吉田ゆか子
(5)イヌイットと醤油 岸上伸啓
(6)ファストかスローか? 宇田川妙子
(7)エジプトB級グルメ 末森薫
(8)ペピアンとホコン 八杉佳穂