国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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食べる

(5)イヌイットと醤油  2014年8月28日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

鯨肉のステーキ=グリーンランド、ヌークで2013年10月、筆者撮影

大西洋の北西部にあるグリーンランドは世界最大の島である。面積は日本の約6倍もあるが、その80%は一年中厚い氷床に覆われている。同島の総人口5万7000人のうち約90%がイヌイットである。

1960年代から急速な近代化が進んだ結果、人口の大半が主要都市ヌークのある西南部の市町村に移住している。また、漁業や水産加工業が発展するに伴い、小規模な狩猟や漁撈(ぎょろう)に従事するハンターの数が激減した。大半の人びとはデンマークからもたらされる牛肉や豚肉、野菜、果物、地元で製造されたパンなどをスーパーで購入し、欧米風に調理して食べている。

それでも地元で獲(と)れるアザラシ肉や鯨肉、トナカイの肉は、地元の市場で売られており、希少な食材として珍重されている。これらの肉を家族や友人といっしょに食べることは、伝統的な食べ物を楽しむとともに、自らが狩猟民の血を引くことを確認し、たがいの関係を深める機会でもある。

食文化のグローバル化によって地元産の食材に、これまでになかった味付けをするようになった。グリーンランドでの個人的な思い出で恐縮だが、イヌイットの友人と鯨肉ステーキを醤油(しょうゆ)だれで食べたことがある。あの時の美味(おい)しい味を忘れることはできない。

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