国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(6)ファストかスローか?  2014年9月4日刊行
宇田川妙子(国立民族学博物館准教授)

景観に配慮してトレードマークの赤と黄色を極力避けた外観=イタリア・ローマで2006年9月、筆者撮影

イタリアでは、皆が食事に時間をかけ、ファストフードは好まれないという印象がある。たとえば1986年、マクドナルドのローマ出店時の抗議がきっかけでスローフード運動が生まれた。しかし彼らも簡単に食事を済ますことは多い。その代表例がピザである。

イタリアのピザには、日本で知られている円形だけでなく、大きな四角い鉄板の型に入れて焼かれ、切り分けるタイプのものがある。このピザを売る店はどの町にもあり、実は頻繁に利用されている。テークアウトも可能で、路上で歩きながら食べる人も少なくない。にもかかわらず、このピザは、なぜファストとして非難されないのか。

一つには、ピザはイタリアの文化だという誇りがある。そして「ピザ屋には店ごとの味があるからだ」と答える人もいる。生地やトッピングだけでなく、地域によっては形や名前も違う。一方、マクドナルドはどこでも同じで、それのどこがおいしいのか、というのだ。

彼らは、おいしいピザ屋について盛んに情報交換をし、店側に味の注文をつけたり、作り方を尋ねたりもする。彼らにとっては、そうした関心や会話も「食べる」楽しみの一部であり、それこそ、ファストか否かの基準なのだろう。そこからは、彼らの豊かな食へのこだわりを垣間見ることができる。

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