国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(7)エジプトB級グルメ  2014年9月11日刊行
末森薫(国立民族学博物館機関研究員)

コシャリはエジプトの混ぜこぜご飯。テークアウトや配達を頼む人も多い=エジプト・ギザ市で2010年12月、筆者撮影

野菜や肉、魚、雑貨などさまざまなものが売られるスーク(市場)を歩いていると食欲をかきたてる匂いが鼻をついた。言わずと知れたエジプトの大衆料理、コシャリだ。日本でいうB級グルメの代表的存在である。器に米とパスタ(マカロニやスパゲティ)、レンズ豆、ヒヨコ豆がテンポ良く入れられ、揚げタマネギ・ニンニク、特製トマトソースがかけられる。お好みで特製調味料のカル(ニンニクを漬けた酸味ソース)やシャッタ(唐辛子他が入った辛味ソース)を加え、しっかり混ぜて食す(「コシャリ」はエジプト方言で「混ぜ合わす」を意味する)。飽きないよう調味料を調節し、味を変えて楽しむのが玄人の食べ方だ。

このエジプトを代表する大衆料理は、もともとは原始キリスト教の流れを汲(く)むコプト教の修道士が肉を食べない菜食主義の期間に食べていた特別食だった。今では人口の約9割を占めるイスラム教の人々も愛食している。

コシャリを食べた日本人は馴染(なじ)みの食感を覚えるかもしれない。20世紀前半にジャポニカ米が日本からエジプトにもたらされて以降、それを元に品種改良された米は広く受け入れられ、今では多くのエジプト人の食を支えている。エジプトB級グルメの代表コシャリにも日本の味覚が息づく。

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