国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(3)雲南で広がる教会の輪  2014年10月9日刊行
横山廣子(国立民族学博物館准教授)

讃美歌を歌う人々=中国・雲南省で1997年9月、筆者撮影

中国の雲南省怒江(どこう)リス族自治州には、少数民族であるリス族やヌー族のキリスト教徒が大勢いる。多数派のリス語の聖書や讃美歌の本が刊行されており、ヌー族の村の礼拝でも使われる。

欧米人による怒江での布教活動は一九世紀末に始まるが、一九二〇年代以降、プロテスタント系の布教が目に見えて進展する。夫妻で現地に長く住み、リス族に野菜の栽培を教え、医療を施し、ラテン文字によるリス語表記法を広めたクック牧師は、特に知られている。クックは聖書の翻訳に打ち込み、一九四七年に中国を去るが、リス族の牧師が引き継いで完成させた新・旧訳の全訳をアメリカで監修した。その聖書は一九六八年に刊行された。

怒江州のプロテスタントは一九五〇年代に信者が二万人、教会は二〇〇以上となった。五〇年代末から二〇年余の受難の時を経て、今では教会が七六〇、信者は十一万人を超えた。リス族とヌー族の人口の約四割に上る。

多くの村人が日曜礼拝に参加し、新しい教会の落成式は、近隣からの信者も結集してにぎわう。そこで皆で歌う讃美歌は圧巻である。当地の民族に伝承されてきた独自の発声法と重唱する技を存分に発揮し、男女混声四部合唱で歌う人びとの表情は、実に生き生きとしている。

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