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(4)母親の妙案 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2015年2月12日刊行
加賀谷真梨(国立民族学博物館機関研究員)

自宅出産で生まれた赤ちゃん=沖縄県竹富町で1997年11月

かつて各小学校に一人はいたであろう真冬の半袖姿の子。かくいう私もその一人で、霜が降りるか雪が降らないとカ上着を羽織ることは許されなかった。今では虐待と言えそうな我が家の教育方針が定まったのは、私が小児喘息(ぜんそく)を患っていた3歳の頃だ。近代医療では治癒困難な事態に接し、藁(わら)にもすがる思いで母親が飛びついた民間療法だったのであろう。おかげで喘息は跡形もなく消え、健康な子供時代を過ごした。

青い海に囲まれた温暖な気候の沖縄県八重山諸島には、私の母親同様、これまで信頼・信用していた医療制度に限界を感じたり失望した経験を持つ本土出身の母親が少なくない。例えば、予防注射でショック症状を起こした経験、陣痛促進剤を用いられかつ帝王切開で分娩(ぶんべん)した経験を持ち、そうした自分の意志の及ばない力に対して子どもの予防注射の拒否や第二子の自宅出産といった方法で抗している。それは、行き過ぎた行為だとして、他の親から批判の声も上がっている。だが、子どもにとっての最善策を考え抜いた末の策であることにも想(おも)いを馳(は)せる必要があろう。南の島には母親にそれぞれの信じるところに向かわせる何かがあるようだ。

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