国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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驚く

(8)からくりにびっくり  2015年5月7日刊行
山中由里子(国立民族学博物館准教授)

テレノイドと対面する筆者=京都府精華町の国際電気通信基礎技術研究所で、2013年11月7日撮影

人間や動物と同じように動く自動機械はすでに古代ギリシア時代から開発されてきた。中世イスラム世界では宮廷人の慰み物として、ポンプ、滑車、歯車などを巧みに組み合わせて、動物や人間の像を動かす水時計や、酒宴の席で自動的に酒をつぐ酌み取り機などが考案された。近代ヨーロッパでも手紙を書いたり、タバコを吸ったりする機械仕掛けの人形が有閑階級の娯楽のために作られた。興行師が実演してまわったり、店先で宣伝用に使われたりもしたらしい。

時代の先端科学は、自然を模倣するからくりで人を驚かせ、楽しませてきた。日本でも最近、石黒浩・大阪大教授が開発したアンドロイドが演劇やバラエティー番組に登場している。

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)のオープンハウスで、その石黒教授が開発した遠隔操作型アンドロイド「テレノイド」に触れる機会があった。乳児ほどの重さと大きさで、肌は真っ白で柔らかい。手足は簡略化されているのに、目鼻口が妙にリアルである。隠れたオペレーターの発話に合わせて口を動かし、話しかけてくる。いわゆる「不気味の谷」を実感した瞬間であった。ホラーが好きな人には娯楽になるかもしれないが、どうも薄気味悪い。しかし高齢者と子どもには人気というから、人の脳の不思議にこれまた驚く。

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