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(8)神霊を担い、受け継ぐ 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2015年7月2日刊行
竹村嘉晃(人間文化研究機構地域研究推進センター研究員)

祭儀の場に現れたテイヤム神=インド・ケーララ州で2005年12月、筆者撮影

インドと聞いて、ヒンドゥー教の神々や祈りをイメージする人は多いだろう。人びとの祈りの対象は、塑像にはじまり、図像画、路傍の石、聖樹などさまざまだが、聖者や霊媒などの人間が、聖なる存在を宿す依(よ)り代(しろ)となる場合がある。

南インドのケーララ州北部のヒンドゥー社会では、かつては不可触民と呼ばれた人びとが霊媒となり、テイヤムという神霊を降臨させる祭儀が行われている。テイヤムは、アクロバティックな技や火渡り、刀剣を操るパフォーマンスやステップを踏む踊りなどを披露した後、村人に祝福と託宣を与える。

現地調査で訪れる際、わたしは神霊の担い手たちの家に居候し、彼らの生活世界を観察している。祭儀を終えたその日の夜、彼らの家では、決まって反省会が開かれている。「あそこは足を上げて」「もっと腰を低く」「ステップを速く」といった具合に、祭儀での実践内容について、父から子へ指導が行われる。神霊の技芸にも修練が必要なのである。

ある日、その家の3歳の孫がわたしの膝の上で、「ディン・ディン」と太鼓の音を口ずさみながら、ステップを踏んで踊りだした。家族は「テイヤム!テイヤム!」と喜んで、その子を囃(はや)したてた。神霊のパフォーマンスは、こうして旧不可触民階層の人びとの生活世界のなかで、次の世代に受け継がれている。

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