国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(7)三つの太陽の石  2015年8月20日刊行
鈴木紀(国立民族学博物館准教授)

メキシコ国立人類学博物館に展示されている太陽の石=2014年10月、筆者撮影

太陽の石は、古代アステカ人が残した石彫だ。重さ24トン。1790年にメキシコ市で発見された。筆者は三つの博物館でこの石の展示を見ている。

本物があるのは、メキシコ国立人類学博物館である。広大な博物館の最奥の建物にその石はある。同博物館は、メキシコ中の先住民族の文化を古代から現代まで一貫して展示しているが、太陽の石はその要のような存在だ。アステカ文明の後継者のナワ民族に関する展示も充実している。

米ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館にも、太陽の石の複製がある。恐竜の化石や隕石(いんせき)の標本が並ぶ博物館に、なぜこの石が展示されているのだろうか。ここではアステカ文明が、人類の文化進化の輝かしい一段階として扱われているからだ。

日本の国立民族学博物館にも、太陽の石の複製がある。同博物館は、世界の諸民族の文化を展示しており、太陽の石は、アメリカ大陸の人々の宗教文化の一端として展示されている。

一般に、博物館はミッションを持ち、それに基づいて展示を構成する。3博物館において、太陽の石は、異なる関心から文化資源として着目され、展示されているのだ。博物館見学の一つの楽しみは、こうした展示の文脈を読み解くことにある。

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