国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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ミュージアム

(10)ロシア最古の博物館  2015年9月10日刊行
佐々木史郎(国立民族学博物館教授)

クンストカーメラ全景=2014年6月25日、筆者撮影

ロシア第2の都市で古都でもあるサンクトペテルブルクは、また博物館・美術館の町でもある。最も有名なのはエルミタージュ美術館だが、あまたある博物館・美術館の中で私が最も気に入っているのは人類学民族学博物館、通称クンストカーメラである。その正式名称は「ロシア科学アカデミーピョートル大帝記念人類学民族学博物館」といい、1714年創立のロシア最古の博物館である。

クンストカーメラというのはロシア語で珍品陳列館を意味する。科学アカデミーを創設したピョートル大帝は、その成果を貴族や市民に公開するために、このような博物館を創建した。建物はイタリアの建築家の設計で、中央に塔を備えた知的な建物である。ただ、1747年に一度火災に見舞われ、多くの貴重な資料が失われたとともに、塔の頂上部分が崩れ、それが復活するには200年以上の歳月を要した。

ここには18世紀初めから20世紀までの間に収集された世界中の諸民族の資料が収集され、展示されている。展示そのものは20世紀初頭のヨーロッパの展示伝統をそのまま残しているために、古色蒼然(そうぜん)としていることは否めないが、それでも北米、アフリカ、アジア、オセアニアの資料には貴重で美術的にもすばらしいものが多い。

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