国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(11)島民の心のよりどころ 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2015年9月17日刊行
佐藤浩司(国立民族学博物館准教授)

海に面した博物館の前庭=2007年、筆者撮影

インドネシア、スマトラ島の西方にニアス島という島がある。巨石文化の残る伝統的な集落で有名な島。ユーラシアプレートの端に位置しているせいで地震の頻発地帯でもある。

この島に来て40年以上になるドイツ人の神父がいる。島外に持ち出されてしまう美術品が多いことを惜しんで集め始めたコレクションが膨大な数にのぼり、やがて博物館を開設するところまではよくある話かもしれない。

島で唯一のこのニアス遺産博物館は、島民の心のよりどころである。文化財の保存や伝統芸能の奨励はもちろん、博物館が音頭をとって国際機関の援助をうけ、地震でいたんだ伝統家屋を修復する、ばらばらだった集落の屋根をカラー鉄板に統一するなど、その活動は多岐にわたる。背景にあるのは、人々の生活を維持し、社会を守るという信念。伝統はその延長に実を結ぶにすぎない。

実は、貴重なコレクションの並ぶ博物館の展示室はいつも閑散としている。けれども、いったん建物の外に出ると、そこには笑いさざめく家族連れや将来を語りあう恋人たちの姿がある。時代の変転のなかでたえず変わらずそこにあること。失ってみてはじめて大切さがわかる空気のような存在、否、長年の連れ合いのような存在、そういう存在に博物館もなれたらいい。

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