国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

世界の都市化

(2)中国の夜行列車の風景  2015年11月12日刊行
池谷和信(国立民族学博物館教授)

混み合う車内の様子。手前に筆者

先日、中国の北京から南東へおよそ500キロ、孔子が生まれた街、曲阜(キョクフ)に向かった。当初、高速鉄道に乗って2時間半で着く予定であったが、飛行機が遅れて予約の列車には乗れず、夜行列車で行く羽目になった。しかも、席はとれずにおよそ8時間、車内で立つという過酷な旅である。

その日は、金曜日で北京から農村にもどる人々で車内はごった返していた。乗客は、労働者風の男性が多く、携帯用のイスを置くなど手馴(てな)れたようにみえる。通路にすわった人は、自分の場所を確保して隣との20~30センチ余りの隙間(すきま)をつめようとはしない。私は、朝まで体力が持つかどうか不安がよぎる。

出発後の車内に、食べ物を販売するカートがやってきたのには驚いた。それでも、雑踏のなかを通りすぎていったのをみて、むしろ感心してしまう。一方で、多くの人がイスのある食堂車に向かったために、入口のドアに鍵がかけられた。その状況でもドアを思い切りたたき中に入りたい人々。皆、必死に生きているということか。

北京は、オリンピック開催後の今でも高層ビルの建設が進んでいる。多く の農民が、北京に集まってきているのが現実だ。この夜行列車は、2晩かけて上海の南の温州まで行くという。毎日、北京と地方とを結んでいる。

シリーズの他のコラムを読む
(1)アフリカの通勤列車
(2)中国の夜行列車の風景
(3)エキスポシティの誕生
(4)アマゾンの港町の風景