国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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現代に生きる伝統

(1)ホッキョククジラ猟  2016年2月4日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

クジラを探すハンター=アラスカ州バロー村付近で2010年5月、筆者撮影

冬も終わりに近づくと、アラスカ北西沿岸地域に住む先住民イヌピアットの最大の関心は捕鯨となる。彼らのホッキョククジラ猟の伝統は、1000年以上の歴史を誇る。

人口4000人のバロー村では、この季節になるとウミアック(大型皮舟)を所有するキャプテン50人あまりのもとに、それぞれ5人から10人のハンターがあつまり準備を始める。

毎年4月下旬からほぼ1カ月間、陸から海に向かって広がる氷原の海縁部に沿って、集団ごとにキャンプを形成し、クジラの到来を待つ。この時期の日照時間は20時間以上あり、ハンターはわずかな睡眠時間を除いて世間話をしながら海を見張り続ける。

クジラを発見すると、ハンターはウミアックに乗り込み、櫂(かい)を静かに漕(こ)いで獲物に近づく。まずはクジラめがけて大型銛(もり)を打ち込み、爆発弾を使用した銃で仕留める。そしてクジラを近くの海氷原に引き揚げ、5時間以上かけて、他の集団や村から集まった助っ人とともに解体を行う。

実は、このハンターたちは村の企業や役場で働く人々でもある。彼らは捕獲の成否にかかわらず、時間の許す限り、捕鯨活動に参加する。クジラ猟に参加することは、彼らの生きがいなのである。

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