国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

現代に生きる伝統

(2)クジラを解体するハンターたち 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年2月18日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

クジラを解体するハンターたち=アラスカ州バロー村付近で2010年5月、筆者撮影

アラスカ先住民イヌピアットの捕鯨は、彼らにとって神聖な活動である。彼らのホッキョククジラとの長きにわたる関係は、単なる獲(と)り、獲られる関係ではなく、独自のクジラ観を生み出した。

まず彼らは、クジラが自らの意思で獲られるために捕鯨者の前に姿を現すと信じている。このため、クジラに敬意を払いながら、捕獲し、その肉を独占することや粗末にすることなく、他の村人や生活に困っている人に分け与えなくてはならない。

また、彼らは、捕獲したクジラを祝宴や伝統的な舞踊で歓待し、その霊魂をクジラの国に送り返さなければならない。そうすれば、同じクジラがその捕鯨者の前に再び姿を現すと信じている。

さらに、クジラは、はるか遠くの出来事を見聞きする能力を持つため、クジラやほかの人間によからぬことをしたり、悪口をいったりする人物を避けると信じられている。したがって、捕鯨者は、クジラに嫌われないようにクジラやほかの人に対し、品行方正な態度と行動をとるよう心がけている。

以上のようなクジラとの関係を、長い年月をかけて培ってきたイヌピアットの人々は、約1世紀前にキリスト教に改宗した後も、クジラについて独自の考えを、脈々と受け継いでいる。

シリーズの他のコラムを読む
(1)ホッキョククジラ猟
(2)クジラを解体するハンターたち
(3)ナルカタック祭の様子
(4)ドラムダンス