国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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現代に生きる伝統

(3)ナルカタック祭の様子 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年2月25日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

ナルカタック祭の様子=アラスカ州バロー村付近で2012年6月、筆者撮影

アラスカ先住民イヌピアットはホッキョククジラを1頭捕獲すると、約5トン以上の食料を得ることができる。この食料はいくつもの共食や分配を経て、すべての村人へと行き渡る。

イヌピアットはクジラから得た肉や脂皮をまず、捕鯨や解体作業に参加したハンターと気前よく分かち合う。その残りはさまざまな祭りのために、ひとまずウミアック(捕鯨用大型皮舟)の船主の地下貯蔵庫で保管する。

イヌピアットが待ち望んでいる祭りは、その年の春にクジラを捕獲した捕鯨集団が主催する真夏の祭典ナルカタックである。それは丸1日続く祭りで伝統舞踊や遊びに興じるほか、村人がもっとも楽しみにしているのは3度の饗宴(きょうえん)でふるまわれる伝統的なクジラ料理である。

この共食で中心となる料理は、クジラの内臓や肉を煮た料理、ミキガックと呼ばれる発酵肉料理、冷凍肉などであり、食べきれない料理や肉は自宅に持ち帰る。村人にとって祭典会場で家族や親戚、友人らと会話を楽しみながらとる食事は至福のひとときである。

捕鯨後の肉の分配やその後に開催される共食への参加は、食料品をスーパーで簡単に購入できる現在においても、イヌピアットとしての生活を送るためには欠かせないものである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)ホッキョククジラ猟
(2)クジラを解体するハンターたち
(3)ナルカタック祭の様子
(4)ドラムダンス