国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

文化の創造と継承

(1)伝統の祭りの創成競争 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年3月10日刊行

吉田憲司(国立民族学博物館教授)


1984年に創始されたチェワ人の祭クランバ=ザンビアで同年、筆者撮影

南部アフリカのザンビアでは、1980年代、主要民族が、「伝統を始めよう」をスローガンに、競って民族単位の新たな祭りを生み出していった。

もともとザンビアには、民族をあげておこなうような祭りはほとんど存在しなかった。80年に東部州の民族ンゴニの人びとが、植民地時代に途絶えたンチュワラという初穂の祭りを再興する。以後、84年にその隣のチェワ人の祭りクランバ(収穫祭)、88年にンセンガ人の祭りトゥインバ(雨乞いの祭り)など、数々の祭りが創出されていった。現在では、ザンビアに73あるといわれる民族の大半が独自の祭りをもつようになっている。

私は、84年の第1回のクランバに立ち会った。その折、村人たちと、「あと50年もして人類学者がやってきたら、きっとこの祭りがチェワの伝統的な祭りだと思い込むだろうな」と、村人たちと笑いながら語り合ったものである。それから二十数年、すでにクランバは「チェワ伝統の祭りクランバ」と称されて、定着するにいたっている。

興味深いのは、これらの民族単位で創られた新たな祭りが、その時期と意味合いをそれぞれ別のものになるように、民族相互で差異化している点である。新たな祭りは、多くの民族が共存する社会を築く一助にもなっている。

シリーズの他のコラムを読む
(1)伝統の祭りの創成競争
(2)父の遺産の返還運動
(3)生活に根ざす黒川能
(4)新たな伝統の誕生