国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

フェアトレードタウン

(1)イングランドの町から  2016年6月9日刊行
鈴木紀(国立民族学博物館准教授)

住民集会が開かれたレストラン。オーナーは代わったが今もフェアトレード食材を使う=2010年、筆者撮影

「フェアトレードタウン」とは、公正な貿易で貧困問題の解決を目指すフェアトレード運動を町ぐるみ推進する地方自治体のことである。現在、世界の27カ国に1800以上のフェアトレードタウンが存在する。

先鞭(せんべん)をつけたのは、英イングランド北西部にある人口5000人ほどの町、ガースタングである。2000年4月世界初のフェアトレードタウンを宣言した。その中心となったのが獣医のブルース・クラウザーさんだ。彼は、開発途上国の貧困問題に心を痛め、その解決方法としてフェアトレードに期待を寄せた。先進国が輸入商品を公正な価格で継続的に買うことで、途上国の生産者の持続可能な開発を支援できると考えた。

しかし住民の支持を得ることは容易ではなかったという。町のレストランで集会を開き、町長、教会や学校関係者、事業主などを説得した。農産物の安値に悩む地元農家にも訴えた。すると、この地方がもともと英国の労働運動発祥の地であることも幸いし、次第に賛同者が増えていったという。

ガースタングの経験を土台に、フェアトレードタウンの認定基準5項目が定められた。これにより、世界にフェアトレードを応援する町が広がっていくことになった。

シリーズの他のコラムを読む
(1)イングランドの町から
(2)ガーナのカカオ栽培の町
(3)コーヒー協同組合の町
(4)熊本、そして名古屋