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大阪の見えざる力

(3)聖徳太子の福祉の伝統  2016年10月20日刊行
出口正之(国立民族学博物館教授)

施薬院、療病院の精神を継承する四天王寺病院=大阪市天王寺区で9月、筆者撮影

 聖徳太子は、四箇院(しかいん)とよばれる、敬田(きょうでん)院、施薬(せやく)院、療病(りょうびょう)院、悲田(ひでん)院の施設を大阪につくった。

 そのうち、施薬院は薬と食の養生を行う施設。療病院とは病気の治療を行う施設。悲田院とは高齢者や障害者など救済を必要とする人々に対する福祉を行う施設である。ゆえに、四箇院のうち、これらの三つの施設は現代でいう医療や社会福祉の源流と考えられている。

 その施薬院、療病院、悲田院の精神を現代に継承しているのが社会福祉法人四天王寺福祉事業団である。現在では大阪府内で高齢者福祉、保育・母子・女性福祉、障がい者福祉、医療福祉の各事業を、四天王寺悲田院特別養護老人ホーム、四天王寺悲田院保育園、四天王寺病院など大阪府内20を超える施設で展開している。

 組織の憲法のようなものである「定款」には、四箇院の継承がしっかりと明記され、実に71の事業が並ぶ。

 もちろん、宗教法人である四天王寺とは別個の独立した存在だ。仏教徒であるかどうかは、職員や利用者とは全く無関係である。

 四天王寺の存在が大きすぎるからなのだろうか。1700人の職員を有する大きな福祉・医療施設が、大阪にあることに気がつく人は案外少ないのかもしれない。

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