国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

フィールドワーク

(3)参与観察  2016年11月24日刊行
横山廣子(国立民族学博物館教授)

夕方、燃料用のトウモロコシの根を「頭部支持背負い運搬」で家まで運ぶ子どもたち=中国・大理盆地で1985年、筆者提供

研究対象の人びとの活動に自身も参加しながら理解を深める「参与観察」の手法は、人類学の主要な調査法である。中国雲南省でぺー族の農家に下宿した私は、家族の一員として冠婚葬祭に出向くなど、幸せな参与観察の半年を過ごした。

ご家族の日々の営みには、可能な限り一緒に参加させてもらったが、なかでも印象に残るのは、トウモロコシの収穫である。

村は傾斜地にあり、畑は坂を上ったところにあった。私には小学校低学年が使うような小さな籠が渡され、輪になった幅広の紐帯に籠を引っ掛け、帯を額に回して出発した。初めての「頭部支持背負い運搬」の体験に、往きは心も浮き浮き、足早に畑を目指した。

ところが、である。無理しないようにと言われ、八分目ほど収穫物を入れて坂を下り始めると、振動がガンガンと額に伝わり、やがて頭痛に変わった。その家の人びとは私の5倍ほどの量を背負い、どんどん先を歩いて行く。痛みを我慢しながら、やっとのことで家までたどり着き、挑戦はそこまでと諦めた。

頭部支持背負い運搬は、世界各地の高低差のある山地で多く用いられてきた。男性優位が顕著だった昔、ぺー族の妻は夫を籠に入れて背負ったとも言われる。車が普及した今日でも、数十キロを背負う人を見かけることがある。

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