国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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フィールドワーク

(4)当惑は発見の母  2016年12月1日刊行
横山廣子(国立民族学博物館教授)

ムハンマドの生誕を祝うためにモスクの礼拝堂に集まった回族の男性たち=中国・大理で2010年、筆者撮影

中国雲南省の大理盆地の農村人口は、ぺー族が大多数を占めるが、漢族やイスラム教徒の回族もいる。

回族の長老を訪問した際、「私は皆さんの風俗習慣をお聞きしている日本人です」と、まず自己紹介した。回族の信仰や生活、ぺー族との違いなどについてひとしきり尋ね、お礼を述べて帰ろうとすると、「ところで君も回族か」と問われた。当惑し、自己紹介からし直そうとすると、長老は「だから日本の回族かと聞いているのだ」と言う。

その後、質問を重ねてわかった。私は、回族は中国の少数民族という前提で捉えていたが、長老は「回族」という語をイスラム教徒と同義に使ったのだった。

回族は他者をまず、ムスリムか否かで位置づける。長老がペー族を語るなかで何度も「漢族」と言い間違えたのも、単なる間違いではなかったと後で私は気づいた。大理の回族が従来、使ってきた呼称では、ぺー族と漢族を同一名称で呼んでいたことが判明した。

中国語に「民族」の語彙が入ったのは20世紀初頭。現中国は、国家として56民族を認定している。しかしそれ以前から人々は、異文化をもつ他集団との違いを自らの感覚によって捉え、自らの言葉で相手を名づけてきた。こうした各地の歴史に根差す人々の分類と呼称は、今でも現地調査を通して探ることができる。

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