国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

文化遺産のいま

(1)仮想世界を求めて 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年12月8日刊行

関雄二(国立民族学博物館教授)


アニメの主人公がペイントされた城端(じょうはな)線の車両=富山県南砺市で5月、筆者撮影

文化遺産という言葉は、国の指導がちらつく厳めしい文化財という呼称よりも親しみやすいようだ。いまや市民遺産や、勝手に文化遺産といった新しい概念も生まれつつある。

今春、ある観光分野の研究会で、新しい文化遺産の使い方に出会った。場所は富山県南部の南砺市である。南砺市には世界文化遺産である五箇山の合掌造り集落が控えるが、研究会のテーマは別にあった。コンテンツ・ツーリズムである。

コンテンツ・ツーリズムとは、アニメ、マンガ、あるいは小説などの舞台や場面をたどる旅をさす。

南砺市の場合、現地にオフィスを構える著名なアニメ制作会社と行政とが手を組んで3組の若い男女の恋を題材にした動画作品を作り、ネットで配信し、若者を呼び寄せているという。動画は現地でないとダウンロードできない。

しかも動画には南砺市の里山の風景や有形、無形の文化財がちりばめられており、若者は、動画の主人公らが愛を語る舞台としての場所を訪れることになる。

過疎地に若者を呼び込む斬新な発想ともいえるが、若者が求めるのは仮想世界であって、文化遺産は脇役にすぎない。文化遺産を目的とする観光とはまったく次元を異にする。

そのうちアニメに登場する建物を保存せよという運動が起きるかもしれない。

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