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文化遺産のいま

(4)二つのマチュ・ピチュ博物館 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年1月5日刊行

関雄二(国立民族学博物館教授)


ペルー・クスコ市に新設されたマチュ・ピチュ博物館における発掘中のビンガムのジオラマ展示=2012年、筆者撮影

南米に栄えたインカ帝国は、1532年、スペインに征服された。しかしその後、インカ王族はアマゾン上流に身を潜め抵抗を試みた。

立て籠もった都の場所は長らく謎であった。それを探求したのが米イェール大学のハイラム・ビンガムで、その途上で発見したのがマチュ・ピチュであった。1911年のことである。

その90年後、ビンガムが持ち帰った発掘品は改めて分析され、その成果をもとにした展覧会が米国内で開催されると、ペルーでは出土品の返還運動が起きる。

文化遺産の不法所持を非難するペルー政府と、100年近く保管してきた点を評価すべきというイェールの主張は平行線をたどり、裁判にまで持ち込まれた。

最終的に2011年にイェール側の自主的返還で決着した。イェール側は、クスコ市内に返還品専用の展示空間をペルー政府に確保させ、展示も担当することになった。第2のマチュ・ピチュ博物館の誕生である。

遺跡のある山のふもとには以前から国立マチュ・ピチュ博物館があった。そこでは、ビンガム以前に、遺跡の存在に気づいていた探検家たちがいたという反イェールの説明が目立つ。しかし来館者はほとんどいない。

一方、クスコ市の博物館は、ビンガム礼賛の展示で盛況を博している。文化遺産の所有をめぐる葛藤はまだ決着しそうにない。

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