国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

マダガスカルの今

(1)海に開かれた島国  2017年2月9日刊行
飯田卓(国立民族学博物館准教授)

マダガスカルで適応放散した原猿類の一種、ワオキツネザル=ベレンティ私設保護区で筆者撮影

日本の1.6倍の面積をもつマダガスカルは、固有で風変わりな動植物が多いことで知られる。しかし、この島国でユニークな文化がはぐくまれてきたことは、意外に知られていない。たとえば、この国の公用語であるマダガスカル語の類縁言語は、近隣のアフリカ大陸になく、6000キロ離れたインドネシアに見いだされる。

明らかに、まとまった数の人たちが、インド洋を横断してマダガスカル島に移住したのだ。大船団を組んだのだろうか。大移動の時代も不明だが、一説では7世紀頃のことだという。

島国だからといって、つねに孤立していたわけではない。近年の研究によれば、マダガスカルに多いキツネザル類も、アフリカ大陸から渡ってきて現在の多様な種に分化したという。同様に、そこに生きる人たちも、世界史的な技術革新や政治動向に影響されてきた。

そのことは現代でも変わらない。それどころか、この島国の時事問題のいくつかは、日本でさえ実感しにくいグローバルな国際情勢を反映していることがある。都市でもそうだが、村落社会にも、そうした問題が転がっている。

動物王国と考えられがちなこの島国の村落社会に目を向けることで、ふつうの人たちのくらしを地球的視野で捉えなおしてみたい。

シリーズの他のコラムを読む
(1)海に開かれた島国
(2)密漁に揺れる国境
(3)経済自由化と生活
(4)生活文化の商品化