国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

マダガスカルの今

(4)生活文化の商品化 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年3月2日刊行

飯田卓(国立民族学博物館准教授)


民家の窓にはめられた装飾入りの木製扉=アムルニ・マニア地域圏で2015年、筆者撮影

文化という語にはいろいろな含意がある。凡人には到達できない技巧や知恵という意味もあるいっぽうで、毎日のくらしに根ざした生活様式という意味もある。後者の意味での文化は10年あまり前、ユネスコが無形文化遺産を制度化して再評価されるようになった。

たとえば日本の和紙作り。けっして特別な技巧ではなく、紙の需要が高まるなかで一部地域の生活に根づいた文化だ。西洋紙作りとは異なるため、グローバル化のなかで再評価されている。

しかし和紙作りは、商品化によって生まれた生活文化だ。自給自足時代の技術が無形文化遺産となった例は、日本にはない。マダガスカルには、それがある。ザフィマニリ人がくらす中央高地山間部では、交通が不便なために商業的な木材伐採がおこなわれず、もっぱら生活必需品を作るために木材が用いられてきた。自給自足の木彫り製作は、ユネスコの公認を受けたため、観光客を惹(ひ)きつけてどんどん商品化されている。

フランスの画商が民家の木製扉を大量に買いつけ、それを素材にフランスの芸術家が装飾をほどこす「コラボレーション」が大きな収益をあげたとも聞く。しかし、それで文化が維持されているといえるのか。生活が変化するなかで、生活文化をいかに維持するか。この問いはわれわれにも向けられている。

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