国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

異形・異相の訪問者

(1)正月の風物「アマハゲ」 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年6月8日刊行

笹原亮二(国立民族学博物館教授)


家の中のアマハゲ=山形県遊佐町の女鹿で2011年、筆者撮影

山形県と秋田県の県境にそびえる鳥海山の麓、山形県遊佐町では、毎年正月に異形・異相の風体の一群が現れる。異相の面相に頬被りをして蓑を着込んだ彼らは「アマハゲ」と呼ばれる。

アマハゲは、不幸があった家などを除いて集落の全戸を訪れる。訪れた先では太鼓の音とともに家に上がり込む。各家では酒肴を用意し、主人が酒を勧めたり、家族の近況を報告したりしてもてなす。話がその家の結婚を控えた娘に及ぶと、アマハゲも「最近は山も娘がいなくてなかなか結婚できない」と悩みを打ち明ける。アマハゲが普段暮らす山もいろいろ大変らしい。

アマハゲと和気藹々な大人たちに対し、戦々恐々なのは子供たちである。アマハゲは家に上がり込むと、まず子供に襲いかかる。饗応を受けた後、帰ると見せて安心させた子供に再び襲いかかる。その場は子供の阿鼻叫喚に包まれる。アマハゲの訪問は、子供たちには受難である。

アマハゲに扮する集落の男性たちによれば、本気で恐がるのはせいぜい7~8歳までであるが、最近は子供も減ってしまい、アマハゲとして家々を巡るのも張り合いがないという。晩婚化や少子化など、当節の人間界の世情を映して、アマハゲの悩みも尽きないようである。

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