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アイヌの木彫り

(3)熊ブーム 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年7月20日刊行

齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)


戦前のものと推定される木彫り熊と絵葉書。骨とう市やオークションなどで売られ、愛好家もいる=筆者撮影

北海道のみやげといえば、木彫り熊を思い浮かべる人も多いだろう。ルーツは二つあり、一つは道南の八雲に農場を持っていた徳川義親が、スイスから持ち帰った木彫りの熊を見本に、冬季の副業として農民に作らせたというもの。1923(大正12)年のことだ。

もう一つが旭川のアイヌの手によるもので、旭川市史によれば、大正初期から作られていたが、およそ熊には見えない拙いものだったとされる。後に、同市では品質向上をねらい技術講習会を開くとともに、買い上げをして生産を奨励した。

有名なのは松井梅太郎という彫り師で、大正末期に獲り逃がした熊を思って彫り始めたと伝わる。写実的で動きのある作風で知られ、35(昭和10)年の「北海道アイヌ手工芸品展覧会」では名誉賞に選ばれ、翌年には天皇陛下に献上された。この10年ほどの間に木彫り熊は急激に民芸品として人気を得て、旭川では生産者組合ができ、各地に流通するようになった。

戦前のものは、四つ脚をふんばった「這い熊」や、大きく口を開けた「吠え熊」などさまざまなポーズがある。目には、まち針の頭の部分の黒いガラス玉をはめ込んだものもよく見られる。昭和30年代以降の北海道観光ブームの頃に大量生産されるようになり、鮭をくわえた熊に定型化していった。

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