国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

カフワから咖啡へ

(1)始まりはアラブ 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年10月5日刊行

菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)


アラブ式中庭でいただくコーヒー=2017年8月、エルサレムで筆者撮影

あいかわらず日本からは遠い世界と考えられている中東だが、中東からの影響は、日常生活の中で意外と多くみられる。そのひとつがコーヒーだ。

アラビア語のカフワがコーヒーの語源であることからも明白だが、中東はコーヒー文化発祥の地である。反イスラム的だと弾圧されたこともあったが、最終的にはひろく普及した。16世紀中葉、オスマン帝国の首都イスタンブールにシリア人が開いたコーヒーハウスは、瞬く間に最新流行の社交場となる。ヨーロッパ初のコーヒーハウスが英オックスフォードにできるのは、その約100年後だ。

世界無形文化遺産に指定されたトルココーヒーは、中深・深煎りの豆を微細に挽いて煮出したものだ。対して浅煎りの豆にカルダモンを混ぜて煮出すのがアラブコーヒーだが、かつてオスマン帝国統治下にあったわたしの調査地パレスチナでは、両者の違いは曖昧で、多分にナショナリズムのにおいがする。

たとえばメニューをみて、トルココーヒーを頼むと、アラブコーヒーと訂正され、実際出てくるものはカルダモン風味のアラブコーヒーである。やはりオスマン帝国の支配を受けていたギリシアやキプロスでも、煮出しコーヒーがギリシアコーヒー、キプロスコーヒーと呼ばれるのと同じ現象といえる。

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