国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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負の記憶の博物館

(3)小林平埔族群文物館  2017年12月21日刊行

平井京之介(国立民族学博物館教授)


2014年に開館した小林平埔族群文物館=台湾高雄市で2017年7月、筆者撮影

小林平埔族群文物館は、台湾の高雄市郊外にある小林村の小さな資料館だ。2009年の台風による豪雨で村は土石流に襲われ、多くの犠牲者が出るとともに、移住を余儀なくされた。この災害を伝える目的で、移住先のひとつに資料館が建てられた。高雄市立歴史博物館が、村人の意見を大幅に取り入れて、展示制作をおこなったという。

災害の記憶を伝える施設としては、中途半端という印象をもった。被災前の村の様子は伝えているが、災害そのものの展示がほとんどない。また、現代的な展示技術を導入したのはわかるが、負の記憶の博物館としてはデザインが可愛すぎる気もする。

1980年代以降、台湾では民主化が進み、先住民である原住民族の権利回復運動が盛んになった。平埔族は平地に住み、漢族文化の影響を強く受けてきたため、台湾原住民族としての権利回復が遅れている。災害をきっかけに作られたこの資料館は、彼らが歴史と文化を再興する試みでもあるのだった。

そして文化復興の試みは、観光開発にもつながっている。展示では、平埔族の伝統的な技術とされるものが熱心に紹介され、エントランスホールではそれらと関連する民芸品が数多く売られていた。負の記憶の博物館は、地元への経済的貢献も大きいようだ。

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