国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

パレオアジア文化史

(2)石器文化の境界線  2018年4月14日刊行

野林厚志(国立民族学博物館教授)


特別展「太陽の塔からみんぱくへ」で展示中のタイの楽器「ケーン」。竹は幅広い用途がある=筆者撮影

現生人類や旧人よりも前の時代にもユーラシアに広く拡散していた人類集団がある。原人である。北京原人やジャワ原人という名前を聞いたことがある人は少なくないであろう。原人のつくる石器は旧人や新人のものとは異なっていた。さらに、原人の石器文化の性格を分ける線がユーラシアを貫いていることが古くから指摘されてきた。ヨーロッパ北部から黒海の北側、カスピ海を横切り、ヒマラヤ山脈の南側を沿いながら、アッサムまで達する「モビウス・ライン」とよばれるものだ。この線を境に、ハンドアックスとよばれる木の葉型の石斧の見つかり方に差があり、使用する石器のタイプの境界を巡る議論が重ねられてきた。

境界の解釈の一つに竹仮説とよばれるものがある。竹を素材にした利器を使用する文化が東南アジアにあったというものである。竹は植物なので古い遺跡では見つからないが、現代の東南アジアや東アジアにおいて竹製の道具が広く普及していたり、竹の中にいる昆虫を食べる食文化の存在は、竹が東ユーラシアの生活文化に深く根ざしてきたことを示している。

今では各地で発掘が進み、新たな発見も得られ、モビウス・ラインはそのままは受け入れられてはいないが、異なる環境に適応した新人文化を探究する手がかりになりそうである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)旧人から新人へ
(2)石器文化の境界線
(3)運搬具と人類の移動
(4)魂と通じる道具