国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

世界の屋根で言葉歩き

(1)5,500,000  2018年5月12日刊行

吉岡乾(国立民族学博物館助教)


「ブルハンはまだ俺たちの中に生きてるぞ!」という落書き=インド北西部スリナガル市で2017年7月、筆者撮影

日本で550万人と言えば、兵庫県の人口ほどである。世界一高い山であるエベレストを抱くヒマラヤ山脈。インド北西部でそのヒマラヤの南にある盆地に、ジャンムー・カシミール(JK)州の夏の州都スリナガル市はある。カシミール語は、スリナガル市を含むJK州北西部などで、約550万の人々によって話されている。

JK州ではインドからの独立運動が続いている。2016年7月に、反政府武装グループ「ヒズブル・ムジャヒディン」の若きリーダーであったブルハン・ワニが、治安部隊によって殺害されて以降、市民と軍警察との間の抗争は激化している。

我々研究者は、数カ月前から計画を立てて調査に出る。16年8月から1カ月間、初のスリナガルでの言語調査を予定していた私は、状況を懸念しつつ、現地へ向かった。結果、ブルハンの死後すぐに発令された外出禁止令がだらだらと続き、半月もの間、滞在先の宿から外出できないという憂き目に。翌年の調査時も政情は回復せず、突発的な衝突が街のあちこちで起こり、イスラム教徒が重んじている金曜日の礼拝をさせまいと、軍警察が街一番のモスクを毎週金曜日に封鎖したりもしていた。

ただ、平和に言語の研究をしたいだけなのにな。

シリーズの他のコラムを読む
(1)5,500,000
(2)100,000