国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

中国の食

(1)祝意を込める  2018年7月7日刊行

韓敏(国立民族学博物館教授)


左から、棗、落花生、桂圓(竜眼)、蓮の実。中国の結婚式に欠かせない=中国・瀋陽市で2017年、筆者撮影

食べ物は、人の命の維持に欠かせないだけではなく、人間の関係性を生み出したり、維持したりするという重要な役割をもつ。そのため、なにを、だれと、いつ、どのような場面で食べるかは、大きな意味をもつ。例えば、多くの国や地域において、結婚式で当事者の2人が同じ酒杯の酒を飲んだり、あるいは同じおわんのご飯を食べたりすることによって、夫婦関係が象徴的に結ばれることになる。

中国の漢族の伝統的な結婚式では、新郎新婦が互いの手を交差させながら酒を飲む。当事者の2人が夫婦となり、末永く愛し合うことを象徴する。そして、漢族の結婚式に欠かせない、4種類の食べ物がある。それは、棗、落花生、桂圓(竜眼)、蓮の実あるいはマツの実である。中国語では、これらの食べ物を表す漢字のうち、「棗」は「早」、「落花生」は「生む」、「桂圓」は「貴い」、「蓮の実」は「子」と同じ発音となるので、語呂合わせになる。これらの4つの食べ物の発音をつなげると、「早生貴子」(早く子供に恵まれるように)という祝福のメッセージになる。

このように食べ物は、結婚する2人の関係性を意味するほかに、彼らの家族や周囲の人々からの祝福を届ける大切な役割を持っている。

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