国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

エジプト映画の今

(1)「もしもし、こちら猿」  2018年8月4日刊行

相島葉月(国立民族学博物館准教授)


反政府デモで命を落とした「殉教者」たちのグラフィティ=エジプト・カイロで2013年4月、筆者撮影

中東では、エジプト映画の映像や音響技術の高さに定評がある。サスペンスやラブコメ、アクションといった幅広いジャンルの作品が数多く製作されていることから、首都カイロは「中東のハリウッド」と呼ばれている。本欄では、4回にわたって、2017年にエジプトで劇場公開された、おすすめ作品を紹介したい。

「もしもし、こちら猿(原題エル=イルド・ビタカッラム)」は、スタイリッシュな映像と音楽に彩られたクライム・エンターテインメントである。マジシャン一家に生まれた兄弟が、警察に不当に連行され、行方不明となった父を救うため、国家権力に対して大ペテンを仕掛ける。2人はサーカスを企画し、訪れた客を人質にとり、元内務大臣に父親の釈放を要求する。

弟役を大人気の2世俳優でラッパーのアフマド・エル=フィッシャウィが演じていることから、緊迫したシーンも非常にコミカルである。黒幕であった元内務大臣を除く人質を解放し、特殊部隊SATに取り囲まれたサーカスから脱出するシーンは爽快な気分になる。

近年エジプトでは、反政府デモやテロ行為に関与したとして投獄され、行方不明になる者が後を絶たない。このマジシャンの父のように無傷で釈放されることは稀である。手品やペテンを使ってでも肉親を捜し出したい人は沢山いるに違いない。

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(1)「もしもし、こちら猿」
(2)「テレビ説教師」
(3)「誠のニッポン人」
(4)「若者2人とヤギの旅」